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会報誌　平成２３年１月号掲載

母は「最高！」の言葉を残して（１９）

実母の抗がん剤治療は２週間間隔で、血液検査の結果次第では出来ないこともあり、治療を受ければ、体調不良になり、脱毛の症状も出てきます。朝１番に病院に入り、治療が出来なくても午前中かかり、出来ると、夕方までかかりますし、点滴は終わるわけではなく持って帰って、48時間後くらいに家族が針を抜き終了となります。治療費も保険適用にもかかわらず、思った以上に高額で、抗がん剤が変わると金額も相当に変動することにも驚きました。

　毎回実母は、病院に着くと「“がん”って書いてあるのが嫌なんよね、怖くなる」と言い、また小さい子供たちや若い女性が帽子をかぶって車椅子に乗っている姿を見て、「こんなにたくさんの人が頑張ってるんだから、もう少し頑張らんといかんかねぇ」と言っていましたが、うつもあったので辛そうで、前向きに考えられず苦しんでいるように見えました。自分が、がんであると認識し、その上で副作用が強く、効果も確定的ではない治療をするのはかなりの精神力を必要としたと思います。結局実母の場合、劇的な効果がないまま治療が終わりました。
　家族で相談し、医師に「今病状が落ち着いているから、治療しないで様子を見ましょう」と言ってもらい、自宅療養に切り替えました。ホスピスという選択肢もありましたが、余命が３～６ヶ月と言われて、実母を一人にできませんでしたし、ホスピス医師の対応より訪問診療を引き受けてくれた医師が信頼できたことが大きかったと思います。実母は、その頃から微妙な認知症の症状が出てきました。

　同居する姉家族は認知症に接するのが初めてだったこともあり、またうつの薬の調節も難しく本当に大変だったと思います。でも認知症症状が出てきたことで、自分が“がん”だということを忘れてくれたことは、悲しくもありましたが、ほっとすることでもありました。抗がん剤をやめて５ヶ月を過ぎた頃から実母は動けなくなり、言葉も少なくなりました。介護ベッドの両脇に姉妹で座って、実母の大好きなイチゴのシャーベットを代わるがわる口に運びながら、「お母さん、どう？」と聞くと「最高～」と返事が返ってきました。みんなで大笑いしましたが、私には実母の最後の“ありがとう”に聞こえました。医師との話し合いで、点滴は最小限にして苦痛を軽減することを第一に考えることにしました。

　そして、大切に育てていた紫の花菖蒲が咲き始め、最後の花が開いた日の朝、苦しみも何もなく静かに旅立ちました。78歳でした。　　　次回

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