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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　会報誌　平成21年４月号掲載
第28話　悲しい話・・・・？

最近のばばは、人を呼ぶ時、「どなたかいらっしゃいませんか？どなたかぁ」と弱弱しい声で叫びます。先日も「どなたかぁ」と声がしたので近づいて行くと、ワンピースが足元に落ちていました。きっと寝巻きに着替えた際、落としてしまったのだと思います。ベッドに腰掛けているばばの手からは拾うことができず、誰かに拾って欲しいようでした。ワンピースを拾い上げ、「私誰か分かる？」とたずねたところ、「？？」と、「訳分かりませ～ん」という表情でしたので、「禎子（ていこ）です！」と言いました。すると、次の瞬間表情が和らいで、私の手を叩くようにして、「あら、同じじゃない！」と言いました（祖母の名前は貞（てい）です。若い頃は貞子（ていこ）さんと呼ばれていたようです）。

　・・・・かなりがっくりきました・・・・（皆さんにはこの気持ち分かりますよね）。母の元に行き、さっそくこの『がっくりした』出来事を報告しました。母曰く「私なんか64年もつきあっているのに、名前覚えてないのよ！！」あ、そっか・・・。娘である母の方が、自分の親から覚えられていないという事実を突きつけられるのは、孫の私よりつらいものなんだぁ。仕方ないけど、ご愁傷様・・・・・。

　この出来事は、長年一緒に暮らしてきた家族としては大変悲しいことです。悔しくもありつらいことです。歳だから、ボケたから仕方がない、ということでなかなか片付けられることではないですよね。『いつから覚えていないのかな。本当に全く覚えていないのかな。でもどうして一緒に暮らせるのかな。知らない人と一緒だと不安に思わないのかな』いろいろ疑問が頭に浮かびます。そして、『自分もこんな風に忘れていってしまうのかな。大切な人のことを』と不安がよぎります。

　母には、祖母以外にも夫である父や娘である私達家族がいます。そのため、ばばが自分の子どもである母のことを忘れていても、母は他の家族との絆を何らかの形で感じ、その悲しみも乗り越えられるのかもしれません。

　自分のことを忘れてしまった夫や妻、そして親と２人だけの生活であれば、その悲しみを乗り越えるのはつらいかもしれません。また、家族のことが分からなくなってしまう方が、ばばのような超高齢者ではなく、まだまだ50歳や60歳代の方であると、その家族はつらいでしょう。

　今回のことは『悲しい』出来事でしたが、私達家族のことを忘れていても、この場所、この家がばばにとって安心できる場所であることに違いはありません（その証拠にぐっすりと毎日よく寝ています）。それはこの空間、この周囲の人間が安心できるからなのだと思います。それだけでも、私達家族にとっては幸せかもしれません。
　

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